川上さんの冒険

川上未映子さんの新作「ヘヴン」読みました。

ヘヴン

ヘヴン

この作品のことは以前TBS「情熱大陸」で、今までの作品と違った文体にこの作品でチャレンジしていて苦闘する川上さん見て知っていました。
この新作かなりの冒険されています。


川上さん芥川賞受賞した「乳と卵」文藝春秋に掲載されたの読んでいます。

乳と卵

乳と卵

大阪弁で、何処か歯切れのあまり良くない、ズルっとした改行のないとっても個性的な文体が魅力で、しかもキラリと光る文章が見え隠れ。なれないとチョット読み辛さも感じました。
そんな感じでした。


この作品、作者名見ずに読んだら、川上さんの作品と思わなかったでしょうね。
そのくらい、今までの、川上さんらしいとても個性的な文体を捨て去っています。
だから、文体は個性的ではないです。(言い切ってしまって良いかどうか、チョット躊躇しています)
でも、その文体を捨てないと書けなかった作品だと思います。
キットこのテーマ川上さんが書きたかったのでは?
と思います。
「いじめ」そう一言で書いてしまっていいのかどうか判りませんが、
そういうテーマで書かれています。
「いじめ」の具体的な記述ありますが、こんなことするの?
ッていう感じで、
私には見たことも聞いたこともないシーンでした。
でも実際はもっと凄惨なことがありうるのかもしれませんね。


主人公は中学生の「僕」(ロンパリというあだ名です)、
でも救われるのが「僕」は1人ではなくて、
同じような境遇の女生徒「コジマ」も登場します。
こういう境遇で、たった一人で戦っている方もいらしゃる事と思いますが、
読者としては(勿論主人公もですが)「コジマ」の存在は大きかったです。
2人ともそれぞれ家庭環境に問題ありという設定です。
で、加害者(これもこう一言で書いて良いのかどうか?ですが)の司令塔、
「二ノ宮」君には川上さんあまり多くを語らせません。
語るのは、その場にいて、命令もせず、手も下さず、止めもせず。
腕を組んでみているだけの「百瀬」君です。
その語り、結構本質をとらえていて、ある意味とっても正しかったりします。


「百瀬」君の台詞、一部だけ引用します。(買ったので手元に本があります)この小説の文体はこんな感じで、関西弁すら川上さん捨てています。
175P後半から176P前半分部

『自分がされたらいやなことは、他人にしてはいけません』っていうのはあれ、インチキだよ。嘘に決まってるじゃないか、あんなの。ああいうのは自分でものを考えることも切りひらくこともできない、能力もちからもない程度の低いやつらの言いわけにすぎないんだよ。しっりしてくれよ」と言って笑った。

ヒェ〜〜書かれちゃいました。
って感じです。
実はこのインチキ、私の座右の銘に近いものありまして、
いままで気付かないうちに、自分がされていやなこと、他人にしてしまった事、あるかもしれませんが、
自分の中では、そうことはしないようにして生きてきているつもりです。


ですから最近もこんな事書きました。
2009-09-06自民も反体制 - なんやかんや

民主の先輩議員さんたちも、
自分たちが新人だった時の気持ちを思い出して、
先輩に指導されて、嫌だった事、おかしいと思ったことを、ここで断ち切って、
指導されて、納得できた事、うれしかったことを伝えていってください。
そうやって、政治が変わって、私たちの意識も変わって、住みやすい日本になることを本当にみんな期待しています。

でも、確かに、
『自分がされたいやな事でも、その人の将来にとって大切な事だから苦言を呈している』
そんな場合もありますね。
そういうことであるのなら、多少恨みを買ってもしないといけない。
それもまた真実ですね。
でも、いじめの場合そういう意味がその中に含まれてはいませんね。
それでも、百瀬君に否定されてしまいました。


最終章で「僕」は石を手に持ったりします。
私も、自分の考え抜きにして、
「まあいいか、やっちゃえ」
みたいな気持ちにりました。
でも、川上さん「僕」にも「コジマ」にも、
『自分がされていやなことは、他人にさせません』
なんかとっても良かった。(^_^)


ヘヴンは「コジマ」が勝手に名付けた美術館にある絵なのですが、
その作者の絵の特徴は他の作品の記述で書かれていますが、
ヘブン自体はどんな絵なのか書かれていません。
「コジマ」自身のその後が気になりますが書かれていません。
他にも、どうなったの?
って事に、書かれていない部分あります。
自分で考えないといけない宿題ですね。
ここまで書いたこと、かなりネタバレでしょうか?
漢字読めないかもですが、
小学生にも読んで欲しいですね。
もちろん中学・高校生にも是非、読んで欲しいですね。



川上さんご自身のブログのなかで、「群像」掲載後、単行本化に辺りさらに加筆修正されたと書かれていました。
川上未映子
http://www.mieko.jp/
 

今回、書籍化にあたって加筆修正をしました。目に見えてわかるようなそんなに大きな変更はないけれど、わかる人には「!」みたいな、一行で小説が変わってしまうような重要な作業だったと思います。あとは細かな調整などなど。しかし小説は手元にあるうちはほんとにまったくきりがないね。あれもこれもになっちゃうね。


版元の講談社今年、100周年、この本にも力入っています。
朝日9月6日朝刊(手元の新聞で5面)
川上さんの写真付きのカラー全面広告入っていました。